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執筆者の写真海野未来雄 UMINO MIKIO

手製本写真集製作奮闘記①

更新日:2019年8月14日

 さて、そんなわけで、試作版の『鴉都』もできたことだし、注文を頂いた分を作っていかなくてはならない。手製本写真集がどんな過程で作られるのか、写真ブームの今日、ご興味がおありの方も多いと思うので、これから数回に分けてその工程を公開していこうと思う。ただし、私は正式に手製本の製作を学んだことがあるわけではなく、あくまで独学であるので色々と勘違いをしていることなどもあると思うが、その辺りはご了承頂きたい。もっとも、独学であるがゆえの様々な試行錯誤もあり、そこから得られたものも本当に大きかったので、簡単にネットや書籍で調べられるような事柄は省きつつ、誰もがつまずきそうな(にもかかわらず情報が少ないような)部分に絞り込んで話をしてゆくつもりである。なお、一般的な手製本の作り方に関しては、『美篶堂とつくる美しい手製本』(美篶堂編、河出書房新社)に多くを負っていることを最初にお断りしておきたい。




 まず始めに、何はともあれ、写真集の仕様を決めなくてはならないが、これについてはかねてから実現してみたいプランがあった。サイズは25×25cmの正方形、両面印刷でかつ見開きページが多く、ページ数は約80ページ、クロス装かつ函付きにする、というのがそれである。なぜそのサイズに決まったのかと言えば、もともと私が巨大なサイズの写真集よりも持ち運びできるサイズの写真集を好み、かつ、一枚一枚のイメージをできるだけ大きく見せたいという思いがあったからだ。25×25cmの正方形は楽に持ち運びできるギリギリのサイズだし、かつ、見開きになったときには写真のイメージが両眼の視野をまるまる占めるほどの大きさにもなる。また、クロス装かつ函付きというのは単純に見た目の豪華さと耐久性の問題だ。


 もっとも上記のような仕様はただでさえ手間がかかる手製本製作の工程を悪戯にふやすだけであることは言うまでもない。たとえば、見開き両面印刷では裏表のセンターラインをきちんと合わせる必要が出てくるし、クロス装にすれば、表紙のタイトル及び著者名をどうやって入れるかという問題に直面する。さらに函製作となれば、コストと手間が二重三重にかかることは当然である。


 にもかかわらず、なぜそのような仕様にしたのか。それはそうした仕様にしたかったことが、とりもなおさず(工業製品ではなく)手製本という方法を選んだそもそもの理由だからである。


 何度も言うようだが、クロス装で函付きという仕様は一冊あたりのコストが間違いなくかかる。もしこれをどこかの出版社に持ち込めば、刷り部数は最低でも500部、標準的には1000部ということになる。そうなればもちろん、一冊あたりのコストは安く上げることが可能だろうが、総費用という点では、手製本で15部製作するよりも遙かにかかることは当然である。一度出版社から写真集を出したことがある人ならばおわかり頂けると思うのだが、1000部作ったところで、その1000部を売り切るということがいかに大変か(在庫の管理を含めて)。それを考えると、もう自分には手製本製作しか道は残されていなかったといえる。よし、少部数の手製本を作ろう、それも、工業製品に負けないくらいの品質のやつを。そう決めたのは良かったが、おかげで、それからまる三年、悪夢のような試行錯誤の日々が続くことになる……(以下、次回に続く)。


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